世界名作劇場でもストーリーの陰湿さが際立ってた
小公女セーラ。
何でも、ラヴィニア役とミンチン先生役の声優さんが、「こんな役は二度とやりたくない」と言っていたとか何とか…。
文庫本は、大人になってから古本屋で見つけて購入しました。
そこで初めて知ったのですが、原作のセーラとアニメのセーラって、印象が大分違いますね。
アニメの方は、本当に完全無欠な聖少女という印象でしたが、原作のセーラは結構怒りの感情を出すし、時には自分の醜い感情と向き合うこともあります。
何というか、
原作の方が人間らしいです。
ところでこの話は、ストーリーが有名で、全く話を知らないという人は少ないでしょう。
なのでちょっと変わった視点でレビューしてみたいと思います。
私がこの本を購入したのは古本屋だったため、初版は昭和27年。
翻訳の伊藤整さんは、あとがきも書かれています。
で、そのあとがきの一節↓
このお話は、いい子どもが悪い学校に入ったために起こる悲劇です。別にセーラがいい子どもではないとかではなく、私が引っかかったのは
悪い学校という部分。
確かにミンチン先生はセーラにひどいことしたけど、
ミンチン女学院ってそんなに悪い学校だったのか?という疑問が…。
その辺、ミンチン先生のことを含めて考察してみたいと思います。
まずミンチン先生ってどんな人なのか。
ここで考えるのは人となりではなく、
どんな階級の家に生まれ育ったのかということです。
何しろ当時のイギリスは完全に階級社会ですからね。
生まれた階級によって、受けた教育、その後の人生は全然違います。
ヒントになるのは、セーラが初めてフランス語の授業を受けるシーン。
ミンチン先生は、セーラが「フランス語を勉強したことがない」というセリフを「フランス語が苦手」と勝手に解釈した後、実はセーラはフランス語がペラペラだと判明して、大恥をかく…という場面ですが、ここで
ミンチン先生はフランス語が出来ないことがコンプレックスだと書かれてます。
この時代、文化の中心はフランスで、それなりの階級の人にとってはフランス語は必須でした。
アッパーミドルクラス(上位中産階級)の家庭に育ったと言われるシャーロック・ホームズもフランス語は堪能で、会話の節々にフランス語を引用してたし。
ミンチン先生には妹のアメリアもいますが、正直アメリアもフランス語が出来そうな感じはしません。というか、頭もよさそうではないしw
そこから推察出来ることは、
二人はさほど知的な家庭で育ったのではないということです。
まさか労働者階級ではないと思うけど、中流でも下層の方だった可能性は十分あり得るのでは?
だとすると、実家の資産はアテに出来ず、その上で学校を設立するのは大変な苦労だったのでしょう。
ミンチン先生は、かなりお金にがめつく、いつも損得ばかり考えていますが、学校の経営はきれいごとでは出来ないだろうし、ここまでくる苦労を考えるとそうなるのも仕方ないような気もします。
さて、そんな苦労の末に設立されたと思われるミンチン女学院ですが、評判の方はどうだったのか?
本を読むと、セーラが来るまでは
さほど悪くはなかったように思います。
まず、そもそもセーラがここに入学したきっかけは、父親の知人のメレデス夫人の推薦によるもので、夫人は自分の娘ふたりがここの卒業生であることから、父親に推薦したと書かれてます。
娘がだらしなく育っていたか、あるいは娘からの評判が悪ければ、誰かに推薦するとは考えられません。
それから、セーラの親友アーメンガードの父親は学者で、相当な知識人だと書かれてますが、そういう人がミンチン先生を信用して娘を預けたというのも、学院の評判をさぐるヒントになりそうです。
一方セーラの方もちょっと考察してみましょう。
セーラは生まれた時に母親が亡くなり、家族は父親のみ。父親が亡くなった時の代理人バロウ氏の説明によると、親族もいないようです。
が、かなりのお金持ちで、インドにいる時は豪邸で、常に召使いがいたと書かれています。
セーラと父親の運命を変えるダイヤモンド鉱山の開発も、お金があったからこそ出来たことです。
で、そこでちょっと疑問なのは、
何でそんな金持ちなのか?ということです。
父親は大尉ですが、大尉の給料だけでそんな生活ができるとは思えません。
ひょっとしたら小公子のセディの父親のエロル大尉みたいに、貴族の次男か三男という可能性もありますが、それなら父親が亡くなった時、親族が一人もいなかったというのは不自然。
ただ、本文に父親はイートン校出身だと書かれていますが、イートン校といえば、貴族の子弟が通うような名門校なので、それなりの家庭出身だったのは確実です。
しかも父親がもし長男なら家督を継がなければいけないわけで、大尉としてインドで暮らしてたなら長男ではない。家督を継ぐ長男だけでなく、次男以降もイートン校に通えたということは、実家はそれなりどころか、相当の資産家だったはずです。
本文中にも「世間知らずなとこがある」という感じの文があるので、家を出る代わりに資産を少しだけ(それでも普通に暮らしてれば生涯不自由しない程度の額w)渡されたというのが妥当な推測かも。
そういえば父親が亡くなった時、
母親の方の親族も見つからなかったんですかね。
バロウ氏は、原作のあの様子だとちゃんとその辺調べたか怪しいもんです。
そう考えると小公子のドリンコート伯爵付きの弁護士ハヴィシャム氏は、ニューヨークの片隅にいるセディ親子を見つけ出したのだから、超有能です。
ミンチン先生も、少しでもセーラにかけたお金を回収したかったのなら、本気でセーラの親族を探せばよかったのに…。
父親の出自を考えると、セーラの学費程度を負担してくれそうな親族の一人や二人、絶対いたと思うんですけどね~。
…まあお金に関する話はともかく、裕福な家庭に生まれ育ったことが伺えるおっとりした上品な性格、勉強好きで読書好きなセーラ。
どちらかというと、子どもに過度な贅沢をさせないという中流~中の上くらいの家庭で育った生徒の多いミンチン学院の校風には、イマイチ合ってないような気もします。
※セーラが来る前は「いい洋服を沢山持ってて一番目立つ生徒」だったラヴィニアの母親ですら、子どもは簡単なものを身に着けるべきという方針だったと作中に書いてあります。
※アニメでは、セーラが使用人になった後、ラヴィニアが特別寄宿生になっていますが、原作でそういう記述はありません。
父親も、夫人の言うことを鵜呑みにせず、セーラの気質や自分の家庭に合った学校に入れればよかったんですよね。
あるいは、郷に入れば何とかで、身なりを周囲に合わせて地味目にさせて、特別寄宿生にせず一般の生徒と同じように教育して下さいとミンチン先生に頼んでおけば、後にダイヤモンド鉱山からみで無一文になった時、先生もあそこまで暴走しなかっただろうに…。
ミンチン先生の中盤~後半の暴走は、
必要以上にセーラにお金をかけ、気を遣いすぎた反動だったのではないかと思うのです。
そう考えると、
ミンチン女学院を悪い学校と切り捨てるのはちょっと違うような気がします。セーラにとっては合わなかったかもしれないけれど、ミンチン女学院にとっても、
セーラさえ入学してこなければ、余計な騒動に巻き込まれなかったのではないでしょうか。
そんなことを思いながら改めて小公女を読むと、また
一味違った解釈が出来るかもしれません。
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