リングスタード伯爵が置いていった、すり替え用のイミテーションだが、それを見たホームズの顔色が変わった。
伯爵が部屋を出てから、ホームズは珍しく興奮して感情をあらわにしたのだ。
「ワトスン!これはすごい依頼だぞ」
ホームズ曰く、この宝石は大昔の大王アルフレッドが所有していたアルフレッド・ジュエリーの一つ、グスタフソンの宝石で、アルフレッド大王の以前はグスタフ・ガーフソンのものだったらしい。
黄色い卵型の石は琥珀で、それにグスタフ本人の顔が彫られている。
そして現在(19世紀末)、この宝石はスカンディナヴィア王家が所有しているはずなのだ。
「ということは、さっきの依頼人はまさかスカンディナヴィア国王なのか?」
「その通り。おそらくスカンディナヴィア国のエリク国王に間違いないだろう」
依頼人の思わぬ正体が明らかになったが、それでも依頼内容の難しさに変わりはない。
どうやってクライスト男爵からグスタフソンの宝石を取り戻すか?
ホームズは静かに思考の時間を過ごし、ワトスンはその邪魔をしないように、外出することにした。
ワトスンが戻ると、ホームズは何がしかのアイデアを思いついたらしく、上機嫌で外出の準備をしていた。
「急げワトスン!すぐ出かけるぞ!」
二人が向かった場所は、男爵が宿泊しているインペリアルホテル。
ホームズはまるで普通の客のようにラウンジのソファに腰掛け、二人分のコーヒーを注文した。
ホームズの目当ては、いわゆる実地調査。
決行の前にホテルの様子、ドアや通路の位置などを確かめに来たのだ。
依頼人の伯爵(国王)が話していた、オスカーとニルスも、違う場所でさりげなく新聞を読んで男爵の動きに備えているようだ。
そうこうしているうちに、風向きが変わった。
クライスト男爵が部屋から降りてきたのだ。
男爵は堂々とした風格がありながらも、視線は爬虫類のように冷たく、ロビーとラウンジを見渡している。
そして何事もなかったかのようにカウンターで手続きした後、ボディーガードと一緒に外に出ていき、オスカーとニルスもさりげなく後をついていった。
それで終わりかと思いきや、ホームズが思わぬ単独行動に出た。
たまたまやってきた中年夫婦を上手に利用して、階段を一緒に上っていったのだ。
呆気にとられたワトスンだが、ホームズは数分で戻ってきた。
「今さりげなく上の階に行ってきたけれど、男爵の部屋は204号室で、鍵はそれほど複雑ではない。
さて、男爵の金庫の鍵に関してだけど、これは専門家のアドバイスが必要だ」
そしてその専門家の元へ向かうホームズとワトスンだが、金庫は無事開けられるのか?
●え?ちょっと待って!
依頼人が本当はスカンディナヴィア国王ってことは、前回のブラウン氏だの叔父さんの借金だの…って話は
全部ウソ!?宝石が男爵のとこにあるのは本当だろうけれど、実際はどんな経緯でそうなったのか気になるー!!普通に考えたら、王家が借金のカタに大事な宝石を渡したりはしないですよね?
●ちなみにスカンディナヴィア国というのは存在せず、スカンディナヴィア半島には当時スウェーデンとノルウェーが存在していました(ただしノルウェーは当時スウェーデン統治下)。トムスンさんの前の著作「ホームズとワトスン」によると、スカンディナヴィア国王のモデルは当時両国を統治していたスウェーデン国王オスカル二世だったのではないか?とのこと。
●そういえばボヘミアの醜聞に出てくるボヘミア王の婚約相手はスカンディナヴィア国王の王女だったけれど、オスカル二世は息子4人しかいないので、こっちはまた別の国王(貴族?)がモデルかもしれない…。
●ホテルでの実地調査の時、ドアや通路だけでなく
女性の着替え室の場所なんかもチェック入れてて、「そんな場所使うのか?」と聞いたワトスンに「ひょっとしたら最後の砦になるかも」と言ってたホームズ。
ラストの複線になるのかと思ってドキドキしてたけれど、この後一度も登場せず…。あの発言は何だったんだ~!
●男爵の部屋は204号室。普通に考えると部屋は二階にありそうですが、英国のホテルは一階がグランドフロアなので、実際は三階。
●何気ないチャンスをモノにして、誰にも疑われず客室エリアに行ったホームズ。
チャンスは常に一瞬だが、待っていれば必ずチャンスはやってくるというホームズらしい名言が登場!
●最初に付けたタイトルは、話が見えなかったので普通に「グスタフソンの石」でしたが、後の説明で宝石っぽいニュアンスが出てきたので
グスタフソンの宝石に変更。でもよく考えてみたら琥珀は鉱物じゃないから宝石でもないんだよなー。でも
グスタフソンの秘宝とかにするとインディ・ジョーンズの副題みたいだしwま、いっか。
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