ホームズとワトスンが向かった先は、ワトスンの予想に反して小洒落た住宅街。
その一角、赤いレンガのちょっとしたお屋敷の前に辻馬車は停まった。
この屋敷の主はチャーリー・ペック。
元プロの空き巣で、現在御年74才ということだが、現役の頃はかなり有能な職人だったとか。
小柄で髪も白いが年の割には健康そうな顔色で、ホームズの久々の訪問を喜んでいた。
近況をあらかた話してから、いよいよホームズが本題に入った。
ホームズが金庫の特徴をざっと述べると、チャーリーは即座に反応を示した。
「その金庫、もしかしてメディチ家の宝石箱か!」
メディチ家の宝石箱とは、昔メディチ家に仕えていたというイタリア、フィレンツェのルイージ・ヴァオリの末裔、セニョール・ヴァオリの作品。
チャーリーが見てきた数多くの錠前の中でも、特に素晴らしいものの一つで、鍵がなければ絶対に解錠出来ない箱として有名だった。
チャーリーは職業上、どうしてもその箱が気になり、昔イタリアのヴァオリの作業場を訪問したことがあった。
イタリア人とイギリス人、言葉は違えど同じような趣味趣向の者同士、かなりいろいろと語り合ってきたらしい。
そして、例の鍵がなければ絶対に開けられない箱、錠前破りの達人でも開けられない箱というのを見せてもらったそうだ。
その箱には鍵が三つついていて、手順を踏まないと箱は開かない。
さすがに鍵の仕組みは教えてはくれなかったが、作成中のものは見せてもらえた。
フタ部分には黄銅の、くちばしの大きな鳥がついていて、爪で何かの葉をしっかり掴んでいたとのこと。
チャーリーは、たった一度だけ見せてもらった鍵を、家に戻ってから即座にコピーし、そして気の遠くなるような時間と労力をかけて、解錠方法を模索したという。
途中、話をさえぎった彼は、ホームズの目の前に、チャーリー特製の解錠道具、いわば空き巣便利セットのようなものを置いた。
そしていよいよメディチの宝石箱を開ける手順の説明をし始めた。
まずは箱の中央の鍵に細い金属の棒を入れて解錠し、それから箱左側→右側の鍵を解錠する。
その後が重要なポイントになるが、三つ目の鍵を解錠すると他の二つは再びロックされるがそこでもう一度解錠すれば箱は開くとのことだ。
さすがのホームズもチャーリーの腕前には手放しで称賛したが、驚くことに、チャーリーは自前の便利セットを一揃い無償で貸してくれると言う。
ホームズはこれ以上ないくらいの感謝を示し、大事そうにポケットに片付け、ワトスンと221Bに戻った。
その後は決行当日になるまで忙しく動き回り、部屋にはほとんどいない状態が続いた。
ある時ワトスンと顔を合わせた際、変わった注文を出した。
「ゴム底の軽い靴が必要だから、用意しておいてくれ」
そんなこんなでいよいよ当日、宝石のすり替えは上手くいくのか!?
●時々登場するホームズの
ユニークな知人。原作にも浮浪者の少年たちで結成する
少年探偵団が登場してましたね。トムスンさんの作品内なら前に出したヴァチカンのカメオに登場する元スリで裏業界に詳しい
サム・ウェッグもなかなかナイスなキャラでした。
●絶対開けられないとか言われると、
我こそは!とチャレンジしたくなるのがプロなのでしょうかwイタリアまでって、今なら飛行機ですぐ行けそうですが、当時は大変だっただろうな~。「硝子のハンマー」「鍵のかかった部屋」etcに出てくる
榎本径とも話が合いそう。
●しかしチャーリー・ペックとホームズ、
どんな経緯で知り合ったのか気になる~。前著のサム・ウェッグなんか、ホームズからサイフを盗もうとしたのがきっかけだったけど、まさかチャーリー、ホームズ宅に空き巣に入ろうとしてつかまった…とかじゃないよね!?
●「犯人は二人」で出てくる
空き巣セットは、この時のものなのかな?あの事件は確か1899年頃に起きていて、この事件は1888年頃に起きたようですが(年はどちらもトムスン著「ホームズとワトスン」参照)、この11年の間にチャーリー・ペックが亡くなってホームズが遺品として引き取った可能性大。
●メディチ箱についてる三つの鍵の開け方、一生懸命翻訳したけど、ややこしい手順だったので違ってるかもしれない~。
●そして次回はインペリアルホテルにて、VS嵐のクリフクライムもどきが開催されるのでお楽しみに~w
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