1999年に新潮社から出ていた初ものがたりが、今年の7月にPHP文芸文庫から完本として出版されていたらしいですね~。
本屋をのぞいたら、懐かしい本が山積みになっていて、ちょっとびっくりしました。
完本は、以前新潮社から出ていたものに、3つのエピソードを付け加えて出版したとか。。。
この初ものがたりは、江戸時代を舞台に、本所深川一帯をあずかる「回向院の旦那」こと
岡っ引きの茂七が、子分の糸吉や権三らと難事件の数々に挑む物語で、短編集になっているので、とても読みやすい。
いや、読みやすいのは、短編集だからではなく、宮部さんの文章だからか。
とにかく、この時代のことなんか歴史の授業程度の知識でも、すらすらと読め、いつの間にか江戸の下町にどっぷり浸かってしまうのです。
※これは初ものがたりに限らず、宮部さんの江戸もの全般に言えることですがwお店を「おたな」、手下を「てか」と自然に読めるようになり、薮入り(やぶいり)、差配人(さはいにん)…という言葉がすっかり頭に馴染んでしまえば、もう宮部江戸ワールドの一員(私含むw)!
そして初ものがたりが他の宮部さんの江戸ものと違うのは、
各章ごとに美味しい食べ物が登場すること。
最初の章で、町に現れた
稲荷屋の屋台の親父。この人が謎の人物で、元はお侍さんらしいが、一体どういう筋の人なのか(作中結局名前も出てこなかったし最後まで正体不明…)!?
店を出すと必ずショバ代をもらいに来るヤクザの勝蔵ですら、すごすご逃げ帰る始末で、茂七も事あるごとに気になるものの、なかなか素性を聞き出せない。
その屋台では、名前通りお稲荷さんがメインなのですが、他にもいろいろと美味しそうなものが沢山出てきて、空腹の時間に読むのは、精神的によくないですw
しかもよく考えてみたら、この時代、一部の雲上人をのぞけば、庶民が食べていたものは、ほぼ「地産地消」。産地偽装なんてあり得ない。
また、冷蔵、冷凍技術もないし、缶詰もないし、ハウス栽培もないので、食べ物は全て季節のもの。その季節に食べられるものだけを食べていた時代だったんですよね。
もちろん現代の私は、その技術の恩恵を十二分に受けている立場なのですが、この時代のこういう食事も悪くないよなぁ~なんて思ってしまったりして…。
※ただし現実的に考えて、この時代で自分が暮らせるとは思えないわけですがwところで、宮部さんの江戸時代もの、これがあまりに上手く出来てて、ついこれが本物の歴史小説のような気がしてしまうのですが、鵜呑みにするのはどうも危険らしいです。
というのも、
江戸時代の研究家杉浦日向子さん(2005年没)の著書によると、まず岡っ引きという言葉は、いわゆる蔑称で、要するに先生を不良が「センコー」とか呼ぶのと同じようなことだとか。
つまり、自分で「岡っ引き」と言うことはあり得ないし、本人に岡っ引きと言うときは、相手にケンカを売る時。少なくとも親しい相手や尊敬する相手には「岡っ引き」とは言わないとか。
最初に作品の紹介で「岡っ引きの茂七」と書いてあるのは、本の裏の紹介文からの引用で、本文中にもちょくちょくこの言葉が出ますが、表現としてはおかしいと思いながら読んだ方がいいのかも。
それから途中「薮入り」という言葉を出しましたが、これも、当時は上方(関西)で使われていた言葉だとか…(でも
wikiではまた違うことが書いてあるなぁ~。個人的には杉浦さんの説が正しいと思いたいですが、最近また説が変わったのでしょうか?)。
ま、そんな細かいことはともかく、とりあえず読んでみることをオススメします。
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