東野さんといえば、映画にもなったガリレオシリーズや、阿部寛が演じた加賀恭一郎のシリーズなどが有名ですが、どちらかというと、スラスラと読みやすい本…というイメージがあるような気がします。
※まあこの人の大半の著作はそうなんですけどねwしかし、その中でも他の著作とは明らかに一線を画していると思われるのが、この
さまよう刃。
この著者が本気出したらこんなすごいものが出来るんだ!と読んだ瞬間驚愕した本です。
私が知る限りこの本は何の賞も受賞してないと思うけれど、この本こそ直木賞ではないのか!とマジで思いました。
※いや「容疑者Xの献身」もいいんですけどね(^^;)内容は、少年3人が、花火帰りの14才の少女をさらって監禁、レイプの果てに薬で殺してしまうという、かなりえげつない、むごたらしい内容です。
少女には母はなく、父子家庭だったのですが、その父、長峰重樹は偶然犯人の情報を得て、娘の復讐をたった一人で果たそうとします。
少年犯罪の問題、復讐の是非が、警察の視点、被害者家族の視点、一般人の視点から、きれいごと抜きにとことん追求する様子は、東野さんの「本気」「手加減ナシ」を感じさせられます。
犯人は未成年、名前も公表されず罰も大したことはない。だから自分の手で娘の復讐をするのだ!固い決意で行動する長峰に対して、警察官含め、多くの人の心が動かされます。
しかし同時に、警察は長峰の復讐を、何としても止めなければならない。
最近このテの犯罪小説の場合「犯人側にも同情出来る何かがあった」的な設定をつけることが多いような気がするのですが、この少年たち、特に主犯の少年には、一切の同情の余地がありません。
ただ、かわいい子とヤりたいからヤっただけ。そしたら死んじゃったから、捨てただけ。
反省も何もなく、警察からも、「ただ捕まりたくないから」逃げるだけです。
だからこそ、事情を知る警察官は、このまま職務を全うすることが、被害者遺族や加害者の為になるのか…という、ジレンマと戦いながら、長峰をひたすら追い続けるのですが…。
終盤、長峰はついに主犯の少年の前に現れ、銃の照準をピタリと合わせます。
周囲の音も声も一切聞こえず、ただ冷静に娘に語りかけながら銃を構える長峰と、おそらく生まれて初めて死の恐怖と対面し、凶悪犯罪者からただのガキに戻った少年。
そして、ついに復讐の瞬間が!という時に、長峰の耳に入ってきた、たった一人の声…。
ページをめくるのがもどかしいほど、話はどんどん進んでいきます。
正直、後味のいい話ではありません。
最終的に、登場人物は、誰一人幸せになれなかった。
だから、面白かった…とは絶対言えないけれど、それでも読んでよかったと心から思いました。
最後に、このセリフでレビューを締めくくります。
「警察は市民を守っているわけじゃない。警察が守ろうとしているのは法律のほうだ。法律が傷つけられるのを防ぐために、必死になってかけずりまわっている。では、その法律は絶対に正しいものなのか。絶対に正しいものなら、なぜ頻繁に改正が行われる?法律は完璧じゃない。その完璧でないものを守るためなら、警察は何をしてもいいのか。人間の心を踏みにじってもいいのか」警察が守ろうとしているのは、市民ではなく法律のほうだ…。世間一般のニュース等を見ていると、本当にその通りだよなぁと思わされます。
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