久しぶりに篠田さんの本が読みたくなったのはいいですが、忙しいのについ血迷って
大長編を借りてしまいました…w
いやー、ほんと長かったですよ、この話。
で、話ですが、ゲームライターを目指してたのに、あと一歩で本が出せなかった
鈴木正彦という男が主人公です。
30代後半で既婚、公務員、管理職候補…人生の勝ち組と言っても差し支えなかったのに、矢口誠というしょうもない男の口車に乗って、全てを失ってしまうところがスタート。
呆然とする鈴木の目の前に偶然現れた矢口、鈴木は矢口に自分の人生が台無しになったことについて怒りをぶつけますが、その時テレビで放送されたのが、あの
9.11事件。
まるで小説のような出来事を目の当たりにした鈴木は、矢口を巻き込んで、思いつきで宗教団体を開設するのです。
…911を持ってくるとこはちょっと強引ですが、
ビジネスとして宗教団体を始めるという構想が面白いです。
そしてその宗教のモチーフは、出版するはずだったゲームブック
「グゲ王国の秘法」。
その上で、チベット風やら仏教やら、怪しげでそれらしいものをかき集め、出来上がったのが
「聖泉真法会」。
教祖は鈴木正彦改め、
桐生慧海(えかい)。「グゲ王国の秘法」が出版された際には、ペンネームとして使用する予定の名前でした。
そんなこんなで、最初の方は何だか
「あなたでも出来る!簡単な宗教団体の作り方」みたいで面白いです。
ちなみに二人は完全にビジネスとして割り切ってスタートしたので、団体を大きくするつもりもなく、いわば
悩める人々のカウンセラー気分。
高額なグッズの販売やお布施の強要はいっさいしない。カウンセラーをうけた人たちが、任意でくれる小額の寄付のみで細々と運営するつもりでした。
が、その欲のない所が幸いというか、禍というか…。
矢口の口の上手さと、桐生慧海となった鈴木の妙なカリスマが、信者を続々とおびき寄せることになります(しかも何故か女性ばかりw)。
というか、新興宗教にハマる人ってこんな感じなんだろうなぁという感じです。2ちゃん用語でいうなら、いわゆる
メンヘラな人たち。
まあよく考えてみれば、普通の人々は、苦境にあったとしてもこんな怪しげなとこに相談せず、しかるべき場所に行きますものねw
何というか、話が進むうちに、まともな思考をしているのは、鈴木(&矢口)だけという状況に…。
そして団体は予想外の方向に進んでいき、
信者はどんどん暴走。
最終的には詐欺団体として世間の糾弾に遭い、教祖の桐生慧海と矢口、一部の信者は警察に追われる身の上になります。
…いやぁ、暴走する信者の怖いこと怖いこと!
信者が暴走し始めた頃、鈴木は、(最も暴走してると思われる)主な信者たちにこの教団の秘密を明かします。
元々自分が作ったゲームブックがモデルになっていることや、自分はただの失業した公務員だったこと…などなど。
それでも、完全にマインドコントロールされている信者には、何も届かない。
届かないというか、知りたくなかったんでしょうね。知りたくないことは、何も受け付けないという状態。
後半、逃亡中に矢口は持病の喘息で命を落とし、桐生慧海はついに数人の信者と共に、警察につかまります。
逮捕された時、
「桐生慧海こと鈴木正彦です」と名乗る瞬間が印象的でした。
ビジネスとして、矢口と二人で始めた新興宗教。作家としてデビューするためにつけたペンネームを、軽い気持ちで教祖の名前にした桐生慧海。
この瞬間、彼は教祖からただの元公務員、鈴木正彦に戻ったのです。
それにしても、一つの宗教団体が生まれてから消滅するまで、著者はよく調べたなぁと思います。
人間心理の描写が見事。
人の心は、簡単に商売道具にしてはいけないのかもしれませんね。
商売道具にするなら、相応の覚悟を持たないと…。
それから最後に一つ、
人間考えることをやめたらおしまいです。
自分の人生なのに、自分以外の誰かに何とかしてもらおうと考える人たちが、妙な新興宗教にハマるのだろうと痛感しました。
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