ノリスが示した家族用の教会!
ホームズはレストレードに、そこを探すことを提案し、3人で向かった。
重い扉をあけて入ると、祭壇には緑のビロードがかかっていて、銀の十字と蜀台が置いてある。
レストレードは、教会の荘厳な空気にすっかり圧倒されているようだ。
それを見たホームズは、前回の捜索ではここは完璧に探せなかったのではないかと思った。
どう見てもレストレードは昔かたぎの、バチあたりなことは出来ないタイプの男性だ。
一方ホームズはそんなことをまるで気にせず、ここからギルバートをあぶり出す方法を思いついた。
それがボヘミアの醜聞で、アイリーン・アドラーに写真のありかを教えさせたあの方法だ。
ホームズは事前にしこんできた、タールのしみこんだ紙と、マッチを取り出し、こっそり火をつけて叫んだ。
「火事だ!!」
ノリスは素早い動きでホームズの持つ火種を奪おうとした。
レストレードも、ホームズの気がおかしくなったと思ったのか、3人で取っ組み合いのような大騒ぎになった。
ところが、その最中、祭壇の方に動きがあった。
緑のビロードが動き、中から、ギルバートが姿を見せたのだ。
しかしホームズもレストレードも取っ組み合いの最中で、とっさに動くことが出来ず、その隙にギルバートは教会の外に飛び出した。
ホームズがいち早く抜け出して、ギルバートを追いかけたが、外はエントランスホールまで一本道なのに、もぬけの殻。
おかしいと思ったホームズは、一瞬の戸惑いの末、カーテンのわずかな揺れ具合から、もう一つの扉を発見した。
それは西の塔へと繋がる道で、後から追いついてきたレストレードと一緒に塔に入り、一気に最上階まで駆け上がった。
最上階の扉をあけると、ギルバートは観念した様子で呆然と立っていた。
「ギルバート・リチャード・グレンヴィル、七代目アーンスワース伯爵、殺人の容疑で逮捕する」
レストレードがこう告げて、部下二人が彼をつれていこうとした。
だがその姿を見たホームズは、ギルバートが何を考えているのか、瞬間的に悟った。
が、もう遅かった。
ホームズが声を出す前に、ギルバートは二人を振りきり、窓から堀に向かって飛び降りたのだ。
後にギルバートの死体は水から引き上げられ、伯爵の爵位は、彼のいとこが継いだという。
そして、ギルバートは犯行を自白する前に死んでしまったので、結局、売春婦の殺人事件とは無関係、ただの不幸な事故ということで処理され、この一件は幕を下ろしたらしい。
ワトスンは、この話を聞いて、公表したいと文書に残したが、ギルバートが犯人という証拠もないのに世に出すことは出来ない。
だから、将来確たる証拠が現れるまで、この話は金庫にしまっておくことにしたのだ。
●普通に逮捕して終わるかと思ったのに、
まさかまさかの結末!でもギルバートが西の塔に逃げたあたりから、ひょっとしてこうなるんじゃないかとドキドキしてたかも。
●家族用とはいえ、教会の中で火をつけるなんて、すごい勇気!というかバチ当たりすぎ~。まあでも探偵なんてやってたら、神のご加護とか信じる気になれなくなるのもちょっと分かるようなwというかホームズって学生時代教会に礼拝に行こうとして犬に足噛まれたりしなかったっけ?(byグロリアスコット号)しかもそのおかげで犬の飼い主のトレヴァーと知り合いになって、実家でトレヴァーの父親に現在の職業を指南されたんだから、やっぱり神様は大事…だと思う。
●ホームズはギルバートが塔から飛び降りた理由について、恵まれた人生を過ごした彼は飛び降りても神のご加護で逃げられるんじゃないか?と思ったのでは…と言ってるけど、それは違うような気が…。きっと捕まった後の人生を想像して、それに
絶望して自殺したのではないかと思います。しかし自業自得とはいえ、あわれすぎる伯爵の末路!
●元々アーンズワース城には、非業の死をとげた二代目伯爵の幽霊が出るという噂があるらしいけど、きっと西の塔にも
ギルバートの幽霊が出そう~。でもイギリス人は幽霊が好きらしいから、塔から見える田園風景よりいい見所になったりして。
●こんなDQN伯爵の跡を継いだ従兄弟もちょっと災難…と思ったけど、八代目は城を一般公開したりして、結構領民に親しまれている気がします(アーンズワースの失踪1/3参照)。ギルバートの(将来の)子供が跡取りになるよりよかったのでは?
●ボヘミアの醜聞のあの手法…って言ってるけど、どちらかというと、ノーウッドの建築業者の方がネタとして近いのでは?
●というか、この事件は一体頃いつワトスンに語られたのか?手がかりは一番最初のレディ・イーディスの訃報記事と、彼女が結婚した時の年。訃報記事には享年72才とあって、彼女が結婚したのは1849年だそうですが、貴族の娘だし、おおよそ20才くらいで結婚したと推定すると、生年は暫定的に1829年。享年72才だから単純に計算すると1901年。トムスンさんの著書「ホームズとワトスン」の年表によると、ホームズがライヘンバッハから生き返って、ワトスンと再び同居してる時期のようですね。うん、二人の会話は何だかそんな感じです。で、ノーウッドの建築業者の事件は1894年に起きているので、やっぱりボヘミアの醜聞よりこっちのネタを出した方がよかったような気がする…。(ただしアーンズワースの事件が名前だけ出てくるのはボヘミアの醜聞の後半。ワトスンは話を聞きながら、あ~あの時言ってた事件ってこれか~とか思ってたのかしら?)
●ちなみにホームズが引退したと言われてる年は1903年の9月以降らしいですが、もうそろそろこの仕事も終わりかなーというとこで、若い頃の懐かしい事件を思い出したのですねぇ。しかし20年以上前の事件なのに一度しか訪問してない屋敷の内部とか細かいとこまでよく覚えていてすごい!
●事件が起きたのはレストレードと知り合って少し経った頃ですね。初めて一緒に仕事したアルミの松葉杖事件が1870年代後半だから、一応1880年と推定(←適当に推定しちゃったけどホームズとワトスンの出会いは1881年1月とトムスンさんが
ホームズとワトスンで書いているので、ギリギリOK!)。ワトスンはこの話を聞く前にレディ・イーディスの写真を見て60代と予想してますが、仮に62才だとすると結婚したのは31才ということになって、この時代再婚でもないのにこれは不自然。さっきの計算だと事件当時51才ですが、きっとドラ息子の将来に悩んで通常より老けてたのかもと勝手に予想してますw
●今回の事件、生前のギルバートを逮捕出来そうだったのに、レストレード大失態。途中までいい調子だったのにねー。ギルバートの死は、殺人とは無関係ということになったけど、レストレードが自分のミスを隠すためにやったことだったらどうしよう~。
●しかし、帰りの電車では気まずかったでしょうね~ホームズたちご一行。ホームズは
せっかくチャンス作ったのに無駄にしやがって…とか思ってそうだし、レストレードは
火つける前に一言相談しろよとか思ってたりして。そして部下二人は
どっちがギルバートを逃がしたか責任を押し付けあったりとかw同じ車両に乗りたくないような、逆に乗ってみたいようなww
●今回ワトスンが話を公開しなかったのは「犯人が確実ではないから」という珍しい理由。まあこの時代
DNA鑑定とかないし…。でもギルバートやアーンズワースの名前を別名にしておけば世間的には大丈夫だったんじゃないのか?ラストが結構インパクトあったのにもったいない~!
さて、これで5つ目の話が終わりましたが、その先ものんびり翻訳…いや、抄訳していきますw
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