ガリレオシリーズ、加賀恭一郎シリーズが、本だけでなくテレビや映画でも大ヒットして以降、続々と映像化される東野作品。
今や
日本一のベストセラー作家と言っても過言ではないでしょう。
10年ちょっと前(←具体的には直木賞受賞前)なんか、最新作でも数ヶ月後には図書館の書架に普通にあったなんて、信じられませんねぇ。
↑今や新作となれば予約待ち数百人で、順番回ってくるまで半年以上はかかる模様。ちなみにこれも発売は2015年5月なので2年以上前です。
この本のタイトルを初めて見たのは、映画の予告。
どうも近々公開されるらしいです。
その時は「ふーん、東野さん、また映像化されるんだ」くらいにしか思いませんでしたが、偶然図書館の返却棚で再びこの本を発見。
そういえば最近東野さんの本読んでなかったな~…と、久々に借りてみました。
内容はこちら↓
温泉地で起きた
硫化水素事故。亡くなったのは著名な映像プロデューサーの
水城義郎。
最近40歳近く年下の女性
千佐都と再婚し、介護施設にいる義郎の実母は、若い妻が財産ほしさに殺害したのではと疑ってる様子だが、温泉地なら硫化水素が突然どこかから噴出しても不自然ではないし、発生する場所を予想してそこに被害者を連れてくるなんて、通常は不可能。
しかし、その温泉地では、これまでそんな事故は起きたことはなく、町は死亡ニュースで観光客減の危機に…。
そこで、町の幹部たちは、専門家
青江修介に調査を依頼して安全を保障してもらうことにしたが、偶然なのか故意なのか、方向が全く見えないうちに、違う温泉地でも
似たような硫化水素の事故で死者発生。
今度亡くなったのは、売れない俳優、
那須野五郎。
水城義郎とは無関係のように見えたが、青江がよく調べると、共通の知人、脚本家の
甘粕才生という人物が浮かびあがってきた。
さらに調べると、甘粕は数年前に
硫化水素が原因で、妻の由佳子、長女萌絵を亡くし、長男謙人は植物状態になってしまったのだ。
この事件と温泉地での事故は関係があるのか?
そして青江が調査中に温泉地で出会った、不思議な能力を持つ女性、
羽原円華は何者なのか?
うん、さすがに東野さんの作品、最後までぐいぐい読ませますねぇ。
読めば読むほど謎が出てきて、先が気になり、一気に読み終わりましたが、一方読み終わって冷静に考えるとあれこれ気になる点も出てきます。
というわけで、ここからは
ネタバレつっこみ開始。
そもそものきっかけは、七年前に起きた、
甘粕萌絵の硫化水素自殺。
妻と長男はこれに巻き込まれましたが、父親の才生はその時、水城義郎と北海道の日高にいて、ケータイで家族の不幸を知った模様…。
↑というのが表向きの事件ですが、これは
甘粕の偽装工作。
硫化水素自殺を装い、自分の理想とかけ離れた家族を抹殺しようとしたのが、事件の真相です。
で、北海道で甘粕のアリバイを担当したのが、水城義郎と那須野五郎。
…うーん、さすがにこれはいろいろと無理がありませんかね。
まず萌絵が硫化水素を自宅で発生させて自殺するというのが、おかしい。
彼女は中学の時妊娠騒動を起こし、高校になってからダンスに目覚めて多少まともになった…とのことですが、どう見ても
わざわざ自宅で硫化水素を発生させるほど化学に精通しているとは思えません。
そりゃあ、ネットで調べたらいろいろ出てくるかもしれませんが、自殺したいならそんなまどろっこしいことせず、
普通に首つりとか飛び降りでしょう。
実際いじめなどが原因で中学生や高校生の自殺がニュースになるときは、大抵そんな感じの方法です。
どうしても家族全員一気に殺したいと思うなら、一酸化炭素中毒辺りにしておけば、
甘粕家の不幸な事故ということで、片付いたのに…。
それからアリバイ工作も
何だか雑です。
北海道の日高地方でどこに滞在したのか分かりませんが、誰かの自宅とは書いてないから、きっと旅館とかホテルでしょう。
那須野が甘粕にそっくりという描写がないから、二人が似てるということもないはず。
警察が写真を持って聞き込みすれば、ホテルのスタッフは誰か一人くらい覚えてそうですが…。
ここは、設定段階で
水城義郎が持っている別荘などにしておけばよかったですね。
というか、甘粕才生は有名な脚本家。その家族が大変な事件に遭ったのですから、
ワイドショーは連日騒いだはずです。
一応失意を装っている本人が、マスコミのインタビューに応えるかどうかはともかく、甘粕才生の過去の写真や映像が新聞テレビに登場し、ひょっとしたら記者が日高地方の宿泊先などに行くかもしれません。
もちろん、家族の友人知人にも記者がインタビューに行き、いろんなことを聞き出したでしょう。
萌絵の中学時代の妊娠騒動や、妻が友人や実家に
夫の異常な完璧主義についてグチを言ってた…などの重要な小ネタもそこで仕入れ、
事件がきっかけで明らかになった甘粕一家の素顔と甘粕才生の裏の顔!という感じで、一大ニュースになったはず。
後に甘粕の書いたブログでは、理想の家族として、彼の望んだ、奥さんや娘、息子の理想的な姿が描かれていますが、
このニュースの段階でマスコミが真実の家族を暴いているので、そもそも彼はブログを書いたかどうか…。
いや、ブログ以前に、このワイドショーの一連の報道がきっかけで、警察もただの自殺から甘粕による殺人を疑いそうです。
で、最初は乗り気だったけど後からビビり出した
水城義郎辺りが警察の追及に負けて真実を告白し、甘粕は逮捕…。
ネットでは
マスゴミなどと叩かれがちなマスコミ業界、この事件に関してだけは
いい働きをしてくれそうな予感がするのに、この作品内のマスコミは何もしなかったのでしょうか。
それとも、たまたま別の地域で
東日本大震災レベルの災害が起きて、記者はみんなそっちに行ってしまったのでしょうか…。
…何だかキリがないので、甘粕事件に関するツッコミはこの辺にしておきます。
ちなみに、この物語のキーワードになるのは、
硫化水素と脳科学。
脳の一部分をいじることで、驚異的な能力が身に付けられる…という話が出てきますが、このテの脳外科関係は東野さんお得意のネタでしょう~。
古くは
宿命(1990年)、
変身(1995年)でも使われてました。
↑他にもあったかもしれないけれど覚えてない。
でもまあ、このネタを読むなら、
変身の方が面白かったかな。
それから一番蛇足に感じたのは、親子の認識に関する話。
通常父親が子を殺すなんて有り得ないが、甘粕才生は生まれつきその
父性行動がそなわっていないから、こういう事件を起こした…と書いてありますが、それは彼が特殊というわけではないのでは?
世の中、実の親による虐待は、結構多いですよ。
最近増えてきたとか言われてますが、それは社会的な認知件数が増えただけで、昔からそれなりにあったはずです。
正直その設定&説明はいらなかったような…。。
普通によくある
サイコパスで片付いた気がします。
そんなわけで、一応面白くは読めたけれど、そう何度も読み返した本ではないかな?
東野さんは以前どこかで、
図書館に本を置くから作家の売り上げが伸びない…的なことを書いてたように思いますが、正直東野さんの本は
面白かったけど、もういいやになることが多いので、衝動買いやジャケ買いはし難いと思ってます。
というか、最後に購入した東野さんの本は
容疑者Xの献身。昔は白夜行とか幻夜、加賀恭一郎シリーズの短編集などを買ってたんですけどね~。
最近の著作は、図書館の書架や返却棚にある時だけ一応読むけれど、買う気はしません。
そろそろ昔の作品を彷彿させるような、
重厚な本を書いて欲しいです。