いやぁ、前回の「アーンズワース事件」以降、なかなか進まなくて、今回久しぶりに
The Secret Notebooks of Sherlock Holmesの6つ目の話の抄訳が終わりました。
この話は結構長かったですね。これまで話は3つに分けましたが、今回は4つに分けることにしました。
しかも世界規模の話であちこち知らない地名は出てくるし…。
英語の他、地理も苦手な私にとっては、いろんな意味で大変でした(爆)。
というわけで前置きはこれくらいにして、6つ目の話
消えた帆船に入ります。
(原題は
The Case of the Vanishing Barque)
ワトスンの記録によると、1889年はホームズにとって特に多忙な年で、発表したもの、してないものを含め様々な事件を解決に導いてきた。
中でも記憶に刻まれているのが、帆船ソフィー・アンダーソンの消失に関する事件であろうか。
この事件は、同年の4月のある朝からスタートする。
ワトスンは結婚して一般の開業医の生活をしていたが、ベーカー街で訪問診療をした帰り、ふと思い立ってホームズを訪ねる気になった。
すると、221Bのすぐ側の歩道に、50代位の男が新聞を持ってうろうろとしているのが目に入った。
彼はこの男は身なりやしぐさからして水夫に違いないと検討をつけ、一刻も早くホームズに報告してみたいと早足で部屋に入った。
そしてホームズを窓まで連れていき、「あの男は水夫で間違いないだろう?」と確認すると、ホームズはそれを認めた上で、さらに「船長とかではない一般の船員で、南の方によく航海してたことと、左利きであること」を追加で指摘し、最後にこう告げた。
「それから、彼はおそらく依頼人だ」
ホームズの予想通り、その男は重々しい足どりで部屋に入ってきた。
男の名はトーマス・コルベット。ルーシー・ベル号という帆船の乗組員で、ニューキャッスル(オーストラリア)と極東をよく行き来しているとか。
(現在はロンドン港に一時停泊中)
しかしコルベットの乗船しているルーシー・ベル号には秘密があった。
三年前まではソフィー・アンダーソンという名前だったのだが、秘密裏に沈没したことにして、多額の保険金を受け取り、その時新たにルーシー・ベル号という名前に生まれ変わったというのだ。
「つまり、保険金詐欺か!」とホームズ。
ソフィー・アンダーソン号はジェミー・マクニールとダンカン・マクニールという兄弟が経営する会社の帆船で、船長のチェーファーは兄弟とは親戚関係。
しかし会社の資金繰りが上手くいかず、兄弟はソフィー・アンダーソン号を利用して保険詐欺を実行することに!
計画内容は、まずバルパライソ(チリ)で荷物のみを乗せ、グラスゴー(スコットランド)に運ぶ途中で沈没したように見せかける。
そして同じ船を新しくルーシー・ベル号という名に変え、同時に乗務員も全て船と一緒に沈んだことにして、新しい名で新しい生活を始める…ということだ。
もちろん関わった乗務員には相応のお金が支払われた。
コルベットは、妻も子供も亡くした独り身で、もう定年間近。まとまったお金ほしさにこの計画に加担したという。
船の入れ替えはスムーズに進み、万事順調かと思われたが、ここで予想外のトラブルが発生することに…!?
●1889年に起きた事件として、
五つのオレンジの種と
ライゲートの大地主の記載がありましたが、原作ではこの二つは
1887年に起きたことになっています(五つのオレンジの種の冒頭でソフィー・アンダーソンの事件も同年に起きた事件の一つと書いてあります)。でもそうするとワトスンがメアリ・モースタンと知り合った四つの著名が1888年に起きているので、時期的に矛盾します。トムスンさんの前の著作
ホームズとワトスンに於いてその矛盾が指摘され、五つのオレンジの種はワトスン結婚後の1889年に起きたのではないかと指摘しているので、この話の1889年という数字は間違いではなく、
トムスンさんご自身の主張に基づいてあえてそうしているのだと解釈し、直さずそのまま訳しました。
●ただし、ライゲートの大地主はトムスンさんの解釈でも1887年に起きたことになってるので、この事件は
トムスンさんの記述間違いだと思います。ちなみにライゲートの話はホームズ療養中の話で、この話の直前に起きた事件で無理をしすぎて、旅先で倒れたホームズからの電報をワトスンが受け取ったのは1887年4月14日。その3日後にベーカー街に二人で戻って、それから一週間ほどライゲートに療養に行ってます(その辺はライゲートの大地主の冒頭参照)。今回のソフィー・アンダーソンの件が、もしライゲートと同じ年に起きていたら、4月のホームズはたった数日しか221Bにいなくて、しかも彼のコンディションは最悪。コルベットが運良くホームズに面会出来たとしても、事件解決どころではなかったでしょうね。というか1887年だとまだワトスンも結婚してなくて221Bにて同居中だったので、最初の記述からして違うだろうし。
●名前見た時には気づかなかったのですが、あちらの船の名前ってソフィーとかルーシーとか
女性名が付くのですね。しかもコルベットが船について語る時はいつも「She(彼女)」。最初Sheが船のことって気づきませんでした。日本の伝統的な船の名前が○○丸と、どちらかというと男性名が付くのとは対照的ですね。
●本編には全然支障がないのですが、例のルーシー・ベル号、コルベットは「4本マストの帆船(a four-masted barque)」と紹介していますが、原作五つのオレンジの種のこの事件の記述は「三本マストのソフィー・アンダーソン号(the British bark Sophy Anderson)」と書いてあるんですよねー(bark=三本マストの帆船)。三本でも四本でもいいけど、何故原作に合わせなかったのか疑問…。
●というか、ライゲートの記述違いと一緒で、マストの数も
読み間違えただけとか?w
●朝食を食べて部屋でくつろいでたら、突然部屋に入ってきたワトスンに窓際に連れていかれて、通行人の職業当ての模範解答をさせられるホームズwしかし全く動じずにワトスンの期待に答えてるのがすごい!
●でもよく考えたら、221Bの近くでウロウロしてる人って、大抵は依頼人ではないのか?ワトスンも職業当てとかしてないで、声かけてあげればいいのにw
●確かに船を沈んだことにすれば当時はそれ以上調べようがないから、保険金詐欺ってさほど難しくないかも?実際案外簡単に成立しちゃうし。ただし、船ほど簡単にいかないのが人間なんですよね~(その話は次回以降)。
●それにしても、乗組員も新しい名で新しい生活って…過去の友人知人とも全員決別しなければいけないわけだから、コルベットみたいに
暗そうで余り社交的ではなさそうな人じゃないとなかなか割り切れないだろうな~。今だと誰かがうっかりFacebookとかで顔出ししちゃってすぐバレそうw
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