今朝、2020年オリンピックの開催地が東京に決まって、日本中のメディアがバンザイしている最中ですが、こちらのオリンピックは、前回、昭和39年の東京オリンピックが開催されるまでの東京の光と影を描いています。
主人公は、兄を某建築現場の飯場でなくした、東大院生島崎。
彼は兄の死因を心臓発作だと聞かされますが、納得できず、夏休みを利用して兄のいた現場でアルバイトとして働きながら死の真相を探ろうとします。
その現場は想像を絶するキツさなのですが、徐々に仕事や仲間にも慣れてきた頃に、真相がわかります。
真相が分かった後も、彼はそこで仕事を続け、そして、兄と同じ闇に入っていくのですが…。
話は、時期を前後しながら、飯場の島崎や周辺の人々と、
オリンピックの開会式会場に爆弾をしかけたという脅迫状を受け取り、警備を強化していく警察、そしてオリンピックの恩恵を存分に受ける富裕層etc、様々な人の目を通して、
運命の開会式に突入していきます。
東京オリンピックという史実を元にしているので、結果的に開会式から閉会式まで無事終えたことは分かりきったことなのですが、それでも中盤以降、テロは成功するのか?とはらはらさせられます。
私は東京オリンピックの10年以上後に生まれているので、話しか知らないのですが、私の親世代の年齢をそれとなく探るには
「東京オリンピックの時何歳だったのか聞くのが一番手っ取り早い」と聞いたことはあります。
それくらいインパクトのある行事で、日本全国民の誰もが、何らかの形で関わった行事だったのでしょう。
この本を読むと、そのことがひしひしと伝わってきます。
敗戦した日本にとっては、世界に復活を知らしめる「国家の威信をかけた行事」だったんですね。
ただしその影には、まだまだ貧しい人が大勢いて、全般的にそういう人たちの命は非常に軽かった。
オリンピックの成功は、大勢の人柱の上に成り立っていたことも忘れてはいけない。
島崎の兄と同じ現場で、兄と同じ原因で亡くなった男の未亡人が故郷の秋田から遺体を引き取りにきて、一日だけ島崎と東京観光をして帰りますが、帰り際の
「東京は祝福を独り占めしている」という言葉が重くのしかかってきます。
そしてその一言が、島崎の人生を変えてしまうのです。
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