この話の面白いとこは、
特定の主人公が見当たらないことではないかと思います。
強いていうなら、二つの家族、
遠藤家と高橋家の家族全員が主役かな。あ、あと二つの家族をつなぐ
小島さと子。
遠藤家は、工務店で技術職をしている啓介と、スーパーでパートしている真弓と、時々癇癪を起こすと手がつけられなくなる、高校生の一人娘、彩花。
高橋家は、医師をしている弘幸と、主婦の淳子、医学部の長男良幸と、高校生の比奈子と慎司。
遠藤家と高橋家は、高級住宅が立ち並ぶ
ひばりヶ丘内の、お向かいさん同士で、日ごろから挨拶程度の交流はある、どちらも一見ごく普通の家庭なのですが、ある晩、高橋家で殺人事件が起こります。
被害者は父弘幸で、加害者は母淳子。エリート一家と呼ばれていた高橋家の子供たちは、ある日突然、事件の渦中に巻き込まれるのですが…。
同じ事件を、遠藤家と高橋家、両家の目線(&近所の住人小島さと子)から、それぞれ少しずつ描いているのですが、一つの出来事が目線を変えると全然違う風に見えてくる…というのは、ありがちな手法ながら、やっぱり面白いです。
みんなエリート揃いと思われた高橋家にも、家庭の事情があって、長男良幸の実母は、彼が2歳の時に事故で亡くなっていて、比奈子と慎司は、後に再婚した後妻の子供です。
とはいえ、再婚した淳子は、3人とも分け隔てなく育て、子供たちも、自分たちは、ごく普通の家族だと信じていました。
あの事件が起きるまでは。事件の夜、弘幸と淳子の会話を偶然外から聞いていた遠藤啓介は、後半、高橋家の子供たちにその会話の内容を伝えますが、伝えられた子供たちの心中は複雑でしょうね。
結局、生き残った家族の人生を守るために、死んだ父親を犠牲にすることを決めましたが、それでよかったのかどうか…。
父親にも身内はいるだろうに、、、
真実は家族だけが知ってればいい…ってそういう問題か!?
とはいえ、関西の大学に通う為に、一人で下宿をしてて、何も知らずに事件に巻き込まれた長男良幸の心の描写が非常に複雑ながらも、分かりやすい。
父親を殺されたとだけ聞いたら、犯人を殺したいと思うだろう。
でも殺したのは、母親だ。血はつながってないが、自分は本当の母親だと思っている。
彼女が人を殺したとだけ聞いたら、何か事情があったのだろうと思うに違いない。対極する二つの気持ちによって、憎しみも悲しみも、
全て相殺されていく様子が、何だか生々しい。
家族で、加害者と被害者が生まれたら、こんな気持ちになるのだろうかと思わされます。
また、事件の傍観者の役割を果たす遠藤家も、彩花の癇癪によって、家庭は崩壊寸前。
ほんと、家は無理して買うもんじゃないですねw
住めば都とはよく言いますが、この場合は、
住んでも都にならなかったパターンかな…。
しかし、この遠藤家も、高橋家の崩壊を目の当たりにして、何とか自分たちの方向を見つけていくみたいです。
彩花ちゃんの「坂道病」も何とか克服出来るといいねぇ…。
ところで、夜行観覧車というタイトルの割には、
観覧車はまだ出来上がってません。というかこれからひばりヶ丘の近くに建設予定w
観覧車が完成する頃は、どちらの家族もみな揃って観覧車に乗れるといいのですが、よく考えたら、どちらの家族も、
本当の現実と向き合うのは、この本の中身が終わったその後でしょう。
それを思うと、少し苦い後味になるような気がします。
PR