牧師館からの帰り際、電車内にて、ワトスンが質問した。
「ところで、アダムズはどうやってケルモア夫人とキャラウェイ准将からの推薦状を手に入れたんだ?」
「それは簡単だ。屋敷の使用人を買収して、レターヘッド付きの便箋を手に入れて、街頭の絵描き辺りにそれっぽい内容を書かせればいい。
それよりもぼくは、アダムズのやり方が、かなり手馴れていることが気になる。
ひょっとしたら、今回の犯罪が初めてではないのかもしれない。
ただ、本名を使用してはいないだろうから、ロンドンに帰ったら、アダムズの過去の痕跡を洗うことをしなければ…」
ホームズはこの言葉通り、数日間ひたすら調査に没頭したようだ。
そしてある夜、ホームズはワトスンにこう告げた。
「ついに証拠を見つけた!明日奴を捕まえる!」
翌日、二人は前に牧師館に行ったのと同じように電車に乗ったが、今回は同伴者がいた。
黒い服を着て、ベールを降ろした中年の女性だ。
ホームズはエディス・クレスウェルと紹介した。
この女性は、10年前、とある裕福な老婦人に仕えていたのだが、そこに現れたのがエドウィン・ファローという魅力的な青年だった。
彼は老婦人を懐柔したが、クレスウェルは彼の胡散臭さが気になっていた。
宝石やお金がなくなったり、老婦人の様子がおかしくなってきたからだ。
そしてある時、ゴミの中からガラスの小瓶を見つけ、底に残ってた薬品を調べてもらったところ、モルヒネが検出された。
クレスウェルは、すぐに老婦人の孫に連絡を取り、弁護士と一緒に外出中のファローの部屋を調べた。すると、宝石やお金の他、老婦人に与える予定だったと思われる薬や、老婦人の遺書の下書きまで出てきたのだ。
ところが、外出から戻るファローを待っていた所、不穏な空気を感じたのか、ファローは逃走。
結局そのまま捕まらなかった。
ホームズは、とある情報提供者から、クレスウェルのことを教えてもらったらしい。
ファローとアダムズは、明らかに同一人物だ。耳たぶが小さいという特徴も一致する。
だから今回、ファローの顔をよく知っているクレスウェルを伴いホルブルック館へ行く手はずとなっていて、地元の駅にはレストレードが紹介してくれたブルストーン警部とその部下が待っていた。
ちなみに今回の依頼人メートランドにも既に連絡済みで、彼は館でアダムズの動向を伺っているらしい。
ホームズ一行は、ホルブルック館に到着した。近くで見ると18世紀風の素晴らしい大邸宅だ。
呼び鈴を鳴らすと、事情を知らせてあるグラフトン夫人が一行をホールに通し、アダムズを呼びに行った。
そしてクレスウェルがベールを上げた途端、アダムズは明らかにうろたえ、無駄な抵抗を示したが、クレスウェルの証言により、彼はあっさり逮捕された。
その後はロンドンでの共犯者も逮捕され、様々な犯罪が明るみに出て、最終的には絞首刑になったらしい。
ところで、ワトスンには謎が二つ残った。
一つは、何故匿名の脅迫状を見てすぐに、アダムズの仕業だと思ったのか?メートランドの自作自演の可能性は考えなかったのか?ということだ。
それに対してホームズは
「新聞の切り抜きがポイントだった。あの脅迫状に使われた新聞は、大衆向けのスキャンダルな新聞だ。メートランドならモーニングポストやタイムズを選択するだろう」
と答えた。
二つ目は、クレスウェルにたどり着いたきっかけとなった「情報提供者」だ。このことはワトスン自身すっかり忘れていたのだが、「ギリシャ語通訳」の冒頭において、それが偶然明らかになる。
ワトスンはホームズ兄弟が活躍したこの話を是非公表したかったが、レジナルド・メートランド卿が存命の間はそれが叶わないので、非常に残念に思った。
●不正な手段で手に入れた推薦状だけど、
街頭の絵描きってそんなアルバイトもやってたんだwそれにしても街頭の絵描き(screever)ってなかなか意味が分からなくて苦労しました。Weblio翻訳→×、エキサイト翻訳→×、Google翻訳→×…goo辞書でやっと出てきましたよ。そんなマニアックな単語だったなんて知らなかったです。ま、覚えても一生使うことないでしょうけどねww
●モルヒネといえば、ホームズも確か愛用してたハズwこの時代コカインとかモルヒネは普通に薬局で買えたらしいですね。ということは、アダムズの他にももっと上手にこういう犯罪をやってた輩はいたんじゃないかしら?
●ホームズが疑いを持ったそもそものきっかけは
脅迫状に使われた新聞の種類。この時代、階級によって読む新聞が細かく決まっていたそうです。とはいえ、アダムズがもうちょっと賢かったらメートランドの読みそうな新聞で脅迫状を作ったのでは?まあまさか切り抜きから種類がバレるとは思わなかったんでしょうけどね。
●余談ですが、現代の日本の場合は階級によってというより、地方によって新聞の種類がかなり違いますよね。それに切り抜きからでも、インクの鑑定等で、どこの地方の新聞なのかすぐバレそう。余り脅迫状向きではない気がします。そんなわけで、もし脅迫状を切り抜きで作るとしたら、文庫本なんかがいいと思いますよ。出来たらどこの本屋さんにもありそうな定番の作家さんがいいでしょうね。あ、もちろん普通にパソコンで作るのが一番手っ取り早いとは思いますがw
さて、これでこの話は終わりますが、次の話は、まだ依頼人がホームズに事情を説明し始めた部分くらいまでしか翻訳してないので、当分出ないと思います。
思えば、ここまでの話(アップウッドの醜聞、アルミニウムの松葉杖、マナーハウスの謎)では死人は出てませんが、次の話は、殺人事件っぽいです。しかも被害者は枢機卿(よく分からないがかなり偉い人)。難しい教会用語とか出てきたらどうしよう~!
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