この本は、
ある一つの事件をテーマに、全ての章が質問と回答、或いは誰かと誰かの会話のみで構成されている、ちょっと変わった形式の小説です。
ある事件というのは、2002年2月11日に起きた架空の事件で、舞台は、とある
大型ショッピングセンター。
4階の婦人服売り場に現れた謎の中年夫婦の万引き騒動と、地下の食料品売り場で不審な男が撒いた不審な液体騒動…。
事件と呼べるものはこの二つくらいしか登場しませんが、何故かこれらがほぼ同時に発生した為、ショッピングセンター内の多くの乗客、従業員がパニックになり、最終的には死者69人、負傷者116人という
大災害に発展してしまいます。
物語の序盤は、まだ事件から日が浅いようで、事件を調べているインタビュアーと、その時センター内にいたお客さんや、事件に直接関わった人の、質疑応答形式で進みますが、中盤~後半にかけては、事件から年月が経過した様子で、質疑応答というより、事件周辺にいた人々、直接事件に関わったわけでもない人たちの会話で話が進みます。
特に主題にあがってくるのは、あの大災害の中、大人たちにもみくちゃにされながら
何故か無傷で助かった一人の女の子。
その子の手には、自分の持ち物ではない、血だらけのぬいぐるみが握られていて、それを引きずって歩いていた所を保護されるのです。
彼女は、この一件から
「奇跡の少女」と呼ばれるようになり、周囲の大人たちの手で
神様に祭り上げられ、しまいには
不幸な最期を迎えることになるようですが…。
インタビュー形式の小説というと、何となく宮部みゆきの「理由」を彷彿させられますが、「理由」は事件の内容も結果もはっきり分かっているのに比べて、こちらは結局
大災害の原因は不明のまま。
ただ、
人間はちょっとしたことでパニックになり、一度パニックになると収集がつかないのだ…ということがよく分かります。
みんなが逃げているから逃げている。ただそれだけで最終的には大災害にまでなってしまうなんて。
何となく学校のいじめ問題みたいだなと思ったのは私だけ?
いじめも、きっかけは些細なことだったりしますね。
でもそれが最後には、相手を自殺にまで追い込むことになってしまう。
周囲の人は、最初のきっけかなんか知らずに、ただ、みんながいじめているから自分も加わってみたという程度だったりして。
この話の本当のテーマは、この災害が何故起きたかとかではなく、
集団心理の怖さや、
災害が起きた後の人々の変化だったのでしょうね。
ごく普通の女の子が奇跡の少女になり、はたまた神様にまでなってしまう…というのが、その象徴なのでしょう。
そういえば、この話、事件の日付は作中に記載があるのですが、年の記載はないんですよね。
でもソルトレイクオリンピックの話が出てきたので2002年と勝手に書いてしまいました。
本を読みながら、ソルトレイクって何年前だったっけ?というか、今年ソチオリンピックがあったけれど、今年から何回前のオリンピックだったか全く思い出せなかった私…(^^;)
次のオリンピックは大体覚えているものですが、前のオリンピックは、終わった瞬間から忘れてしまいますねw
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