昔本屋さんで発売直後だったこの本を、たまたま見かけて、衝動買いしてしまった本です。
著者は、都立墨東病院の救命救急センターの部長
浜辺祐一先生。
救命センターからの手紙という本が日本エッセイスト・クラブ賞を受賞したのをきっかけに、数冊救命センターで起きたあれこれを本にしていて、これもその一冊。
賞を受賞した「救命センターからの手紙」や、看護師さん向けの月刊誌に掲載されたエッセイをまとめた「こちら救命センター」は、超短編という感じで、一つ一つの話がものすごく短いのですが、この「救命センター当直日誌」は、それに比べるとちょっと長め。
エッセイというより、
短編集のような感じになっています。
が、内容は短編とは思えないほど
濃厚!舞台が救命センターなのだから当たり前なのですが、一つ一つの話で人の生死にまつわるあれこれがものすごく濃い。
自分の人生の終わりは、正直
こんな風に向かえたくない…と思う話も多いです。
(が、こればっかりは神様しか分かりませんけどねw)
いくつか話を抜粋しましょう。
まずは最初の話
破裂。
トップバッターからいきなりこれか…というくらい濃さ満点。
患者は50代男性で、吐血して救命センターへ。
調べていくと、末期の肝硬変であり、既に手遅れ。
奥さん曰く、お酒が好きな割には病院嫌いで、どうしようもなかった…が、これをきっかけに心を入れ替えてくれれば…なんて具合で、自分のダンナが死ぬかどうかなんて考えてないし。
そんな奥さんに対して、浜辺先生ははっきりと
「もう土俵を割ってる」と告げます。
この話のポイントは、最初に医者同士の話で出た「患者のニーズにどこまで答えるべきなのか」という話題。
最後になって、この患者に対してニーズに答えるとはどういうことなのか?と再度話題になりますが、「そりゃあ輸血や治療でなるべく長く延命を図るべき」という若い医師に対して、浜辺先生が一言。
「何十人もの善意の人が献血してくれた血液製剤が、湯水のごとく使われるんだぞ、しかもまるでザルだ、そんなこと、医者として許せるもんか!」はっきり「無駄」とか言っちゃってるよ…浜辺先生。
でもそれが本音なんだろうなー。
次はちょっと軽い話
遮断釣りが趣味のオッサン5~6人が、自分で釣ったフグを調理して食べたあげく、そのうち2人がフグ毒に中って、救命センターへ…。
幸い処置が早かったので、2人共
間一髪で三途の川から呼び戻され後遺症もなく、その他のメンバーも症状は出てないようだし、よかったよかった…という話なのですが。
よくないのはオッサン連中。
警察まで登場してきて、大騒ぎになっているのに、全っ然反省してないしw
こんな
バカ集団相手にする救命センターも大変やねww
救命センターはこんな常連客ばかりで、いちいち頭に血を上らせていたらやってられません…という感じの最後のコメントが何とも…。
しかしこの話のおかげで
テトロドトキシンという毒物をしっかり覚えた私ですが、これぞ無駄知識w
それから医療ドラマでよく見かける人工呼吸器。あれを何日も付けるのって、相当な苦痛らしいですね。やったことないけど…というかなるべくやりたくないけどw
今回の二人も、あの苦痛を味わったんだから、もう二度とこんな思いは…と反省するかと思いきや、強力な鎮痛剤や鎮静剤のせいで、ほとんど意識はなかったとか。
もうこの次来たら、鎮痛剤ナシでやっちゃっていいんじゃね?と思ったのは私だけなのか!?
最後はちょっとイイ話系
遷延(せんえん)ある日脳内出血で救命に運ばれてきた40代男性。
脳幹からの出血ということで、手術は不可能。命は取り留めたものの、意識は戻らず、いわゆる植物状態に。
※タイトルの遷延は、植物状態の正式名称
遷延性意識障害から。
子供はなく、家族は奥さんのみ。
で、通常、回復の見込みがない植物状態だと、救命センターではなく、他の専門医院等に転院をしなければ、救命のベッドは空かない。
この患者も、普通通りにどこかに転院するかと思いきや、奥さんの出した答えは
「自宅で面倒を見る」というもの。
もちろんそれは生半可なことではありません。
食事の世話、失禁状態のシモの世話、床ずれを防ぐ為に行う数時間置きの体位変換、意識があれば普通にやっているはずの痰の吸引…etc
専門の看護師でさえ、苦労するようなことを、素人の女性になんか出来るわけがない。
当初、浜辺先生を始め、皆どうせすぐ音を上げると高をくくっていたはずなのに、この奥さんはあれから
10年も面倒を見続けていたというのです。
さら~っと文章で書きましたが、それって相当すごいことですよね。
自分だったら同じことが出来るかどうか、ちょっと自信ないですw
話の最後、その奥さんが浜辺先生にこう伝えます。
「やっぱり、うちの人に、もう少し生きてて欲しいんです」10年経っても、なおそう思い続けるって、すごいとか、もうそういう言葉では表現出来ない気がします。
と、こんな感じで紹介しましたが、他にも
中学生の暴走バイク野郎の話とか、濃厚な話が盛り沢山。
ドラマでは描かれない
本物の医療の現実がよく分かる一冊だと思います。
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